歯が命の日 8月1日

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、私たちの暮らしを一変させました。マスクの常時着用や外出自粛などは、口呼吸や間食の増加などで口内環境にも変化をもたらし、歯や体の健康に影響を与えるケースもあります。

今回の丸の内キャリア塾では「歯が命の日」記念として、口内環境と免疫系の関係をテーマにした専門医のスペシャル対談を実施(協賛・サンギ)。内科・皮膚科医の友利新さんと歯科医の加藤正治さんが、新しい生活様式のもとで健康で美しくいるためのポイントを語り合いました。

内科・皮膚科医

口腔ケアが健康寿命を延ばす

友利 新氏 (内科・皮膚科医)
東京女子医科大学卒業後、同大学病院内科勤務を経て皮膚科医へ。現在は都内
の内科と皮膚科2 カ所のクリニックに勤務し、雑誌やテレビでも活躍。著書に「最新 美肌事典 1 週間後のキレイが変わる、10 年後の自分から感謝される」など。YouTube チャンネル『友利新/医師「内科・皮膚科」』は登録者45万人超。

規則正しい生活で免疫を整える

――コロナ禍で「免疫」に対する関心が高まっています。

友利:メディアでよく「免疫力を高める」との言い方をしますが、あれは間違いです。免疫系はウイルスや細菌などの病原体から身体を守る働きですが、その働きが過剰になると自己免疫疾患を引き起こします。新型コロナ感染症も免疫系が暴走して過剰な炎症が起きることで重症化します。免疫は「高める」のではなく「免疫系のバランスを整えて正しく働かせる」必要があります。

 免疫系を整えるにはバランスの良い食事と睡眠・休息をしっかりとること。あとは適度な運動をし、ストレスをためないことです。「免疫力アップ」をうたう食べ物やサプリメントを摂取すれば効果があると考えるのは誤りです。

加藤:口腔内には外部からの有害な細菌などを防ぐ機能があり、歯周病菌を減らすことによってインフルエンザウイルスの細胞への付着を阻害できることが研究で分かっています。新型コロナウイルスも同じような付着方式で感染するので、口腔内のケアをしっかりして細菌を抑え込むことが大切です。日々の歯みがきにはむし歯や歯周病のほか、ウイルス感染予防という役割もあります。

――友利先生も健康寿命を延ばすためには口腔ケアがとても大切だと唱えていますね。

友利:昔の人の寿命が短かった一因にむし歯や歯周病があります。
歯周病は気付かないうちに進行する慢性炎症で、炎症性物質が全身に行き渡ると糖尿病の悪化や動脈硬化などを引き起こします。

健康で長生きするためには、毎日の歯みがきとデンタルフロスで歯垢を取ること、歯科医院に定期的に通って口腔ケアを受けることが大切です。自分の歯みがきではみがき残しがあるので、プロの歯科衛生士から歯垢や歯石を除去してもらうケアを私も定期的に受けています。

加藤:厚生労働省も2019年に定めた「健康寿命延伸プラン」に歯周病対策の強化を盛り込みました。
 昨年はコロナ禍で歯科受診を控える人が多かったのですが、歯科医院はもともと感染対策を徹底していますので、安心して定期的な受診を続けてほしいですね。

高輪歯科 院長

正しい歯みがきで感染予防を

加藤正治氏

加藤正治氏 (高輪歯科 院長)
1990 年東北大学卒業。歯学博士。98 年、高輪歯科(診療部門)開設と同時にハイドロキシアパタイトによる歯のケアに関する臨床研究を開始。10 年にデンタルサイエンススタジオ(研究部門)を併設。「ケア型チーム医療」「セルフケア処方」を提唱し、一人ひとりのリスクを分析した「未来の健康」を発信している。

マスク生活 お口の中は要注意

――毎日の口腔ケアの正しい方法について教えてください。

加藤:歯ブラシだけでなく、毎日フロスや歯間ブラシも使ったケアを勧めます。歯並びや歯と歯のすき間には個人差があるので、その人に適したフロスや歯間ブラシを選んだうえで、上手に使いこなすことが大切です。サイズが合わない歯間ブラシでギシギシとこすってしまうと歯が削れてしまいます。まずは正しい歯みがきができているかを歯科医院で確認し、個人に合ったケアの仕方を指導してもらうのがベストです。

友利:私もフロスを使うと歯垢がきれいに取れている感じがします。私の子供たちには3歳ぐらいから歯ブラシの後にフロスで仕上げをするようにしました。フロスも毎日の生活習慣として身に付けてもらいたいと思っています。

加藤:子供の頃から習慣づけするのは大事ですね。最近は口の中をスキャンした3次元画像をスマートフォンで確認できるアプリがあります。歯のみがき残しは赤い染色液でチェックしますが、その3次元画像をスマホに入れてあげると、子供たちはそれを見て歯のみがけていない部分をすぐに把握します。
 大人で歯みがきが苦手な人は、みがき残す部分が毎回同じ傾向があります。生涯にわたって自分の歯と付き合うには、口の中の3次元イメージを持って弱点をいつも意識することが大切です。

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――マスク生活の常態化で口内環境の悪化を心配する声が読者から多く寄せられています。

加藤:マスクをしていると息苦しくて口呼吸が多くなる傾向があります。会話も減り、唾液の循環が抑えられて口の中は乾燥し、細菌が増えやすい過酷な環境になります。
 加えてコロナ禍ではテレワークとなり、好きな飲み物やお菓子などを口にする機会も増えています。コーヒーやお茶などで歯が着色しやすくなったり、炭酸飲料やかんきつ飲料など酸性の飲み物で歯の表面が溶けてしまう「酸蝕(しょく)」になったりするリスクが高まります。

友利:私は炭酸水が好きでよく飲んでいますが、気を付けたほうがいいですか。

加藤:炭酸水に限らず酸性度の高い飲食物を頻繁に口にすると、歯は溶けやすくなります。本来は表面のミネラルが少し失われても、唾液中のカルシウムとリン酸でミネラル補給(再石灰化)して表面を修復しますが、唾液が少なくなるとその効果が落ちます。
 酸蝕は歯の溶け出す量のほうが多い状態ですので、摂取する回数を減らす、間隔をあけるなどの工夫が必要です。特に知覚過敏が治まらない人は酸性飲料の取り方に原因がある場合もあるので要注意です。コーヒーなどによる着色についても唾液量や水分量の不足で色素が吸着しやすくなっているので、こまめに水を取ることは大事です。

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友利:人はストレスや緊張によっても唾液の分泌が少なくなり、口の中が乾きますからね。

加藤:最近はストレスで長時間、奥歯を噛みしめている人も増えています。歯の神経への血流が悪くなり、しみや痛みを引き起こしたり、すり減ったりする原因になります。ブラッシングのし過ぎも歯を摩耗させますので、正しく歯をみがくことが大切なのです。ストレスの多い現代社会や食生活事情を考えると、歯の寿命を延ばすためにもミネラルを補給するケアが必要だと思います。(図参照)

お肌も歯も 美はいたわりから


――毎日を健康で美しく過ごすためのメッセージをお願いします。

友利:いまはコロナ禍でストレスが多い環境なので、私は意識してリラックスする時間を設け、周囲に惑わされずに自分にとって楽しいことを求めるようにしています。
 最近はメーキャップ化粧品よりもスキンケア化粧品の需要が伸びているそうですが、これも自分のお肌に本当に必要なことを求めている表れだと思います。自分のことをしっかり見つめて、自分らしく生きていきたいですね。

加藤:歯のケアもスキンケアに似ています。歯科医院で行うプロのケアは歯の汚れをまず浮かせて洗い流し、ハイドロキシアパタイトなど必要物質を補って、最後にジェルで封じ込めます。
 ゴシゴシと洗って終わりではなく、歯の表面をいたわりミネラル補給してあげると、歯の印象を決めるエナメル質が年齢にかかわらず見違えるようによみがえってきます。不摂生をすれば歯の表面も荒れてきます。お肌と一緒ですね。口内環境は人それぞれ違います。自分の口腔に必要なものを把握して、正しいケアに取り組んでいただきたいです。

スペシャル対談

 

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2021年8月1日発行
日経新聞「NIKKEI The STYLE」
丸の内キャリア塾スペシャル対談 掲載