サンギは、2015年7月20日(月・祝)に日経カンファレンスルーム(東京大手町)にて開催された、日本経済新聞主催のシンポジウムに協賛いたしました。予防歯科の大切さ、一生を自分の歯で健康・元気に過ごすために今からできることについて、大学教授や歯科医師が講演しました。
食事が楽しく、美味しい。人との会話や会食も楽しみたい。このように健康で生きがいのある毎日を送るためには“口や歯”は大切な役割を担っています。
歯の表面はエナメル質という固い結晶でできていて、その内側は象牙質。主な成分はハイドロキシアパタイトです。更に内側には歯髄という神経や血管などの組織があります。
むし歯はいろいろな要因が関連して発生しますが、特に食生活の影響を強く受けます。
砂糖の入った食品の摂取により歯垢中の細菌が酸を産生すると、その酸によってエナメル質のミネラルが溶け出し(脱灰/だっかい)、むし歯の一歩手前の状態「初期むし歯」になってしまいます。細菌の作りだす酸以外にも、柑橘果物、酢、スポーツドリンク、炭酸飲料などの酸性飲食物の頻回摂取で歯が化学的に浸蝕(酸蝕)されたり、くいしばりや噛みしめがつづくことで歯がすり減り、亀裂が入ることもあります。
唾液には酸性になったお口の中を中和し、初期むし歯の修復(再石灰化/さいせっかいか)を促す役割があります。間食などによりこの再石灰化の時間が十分にないと、むし歯へと進行してしまいます。その他にも唾液には抗菌作用、抗がん作用など様々な働きがありますが、服薬の副作用やストレス、加齢、口呼吸などで唾液量が少なくなってしまうことが知られています。
歯質の結晶成分であるカルシウムやリンが再石灰化しやすいようにする成分はいろいろありますが、例えば唾液の再石灰化を促すフッ素(フッ化物)や、再石灰化作用のある薬用ハイドロキシアパタイトを配合した歯みがき剤を使用するなど、基本的には歯みがきが大切です。
また日頃から水分を十分補給し、食事を良く噛み、舌体操や唾液腺マッサージをおこなうなど、唾液をたくさん出すことを心がけ、お口の健康を増進しましょう。
生涯自分の健康な歯で生きるためには、歯の寿命をからだの寿命以上に延ばすことが必要です。
奥歯は1年に0.029ミリメートルすり減るという研究があります。奥歯の高さが平均6~7ミリメートルほどで、単純に使えなくなるまで約200年かかります。ただし歯のケアをおこたると200年はおろか生涯自分の歯で過ごすことはできません。
100歳超まで歯を20本以上維持できる人にはいくつかの共通点があります。最大のポイントが多くの歯が神経を残したままエナメル質に守られているということです。エナメル質が失われる原因として代表的なむし歯。むし歯もミネラルが溶け出した「初期むし歯」と呼ばれる段階であれば削ることなく治せる可能性があります。
本来失われた歯のミネラルは唾液の力により回復されますが、歯の表面にナノ粒子のハイドロキシアパタイトを直接供給することで、この作用を効果的に高めることが可能です。このような結晶成分を補給するケアを「ミネラルチャージ」と表現しています。歯みがき剤で歯の汚れを落とすだけでなく、スキンケアのように必要なものを補給しながらいいコンディションを維持することはやがて大きな結果をもたらすことでしょう。
歯の予防は、目に見える変化が現れる前の着手が理想。その意味で予防のスタートラインをいかに早くし、定期的なクリニックでのケアとバランスのとれら家庭でのセルフケアを行っていただくことをおすすめします。ミネラルチャージを行えば実年齢よりもはるかに若々しい歯を手に入れることも夢ではありません。
歯の表層では、脱灰と再石灰化が繰り返し起こっています。昔の歯科学は、一度脱灰された歯は必ずむし歯に進行するので、早期の発見と治療が重要とされていました。しかし最近では、初期のむし歯は管理をよくすれば削るほどのむし歯に進行しないことが解ってきました。
むし歯予防を考えるとき多くの人たちが、むし歯の原因を作らないために砂糖の量や摂取回数を減らし、歯垢を取り除く歯みがきをしようと考えていました。
1970年代、私たちの研究室では「歯の強化」が大切と考え、フッ化物の基礎研究(フッ化物のエナメル質への影響)とフッ化物溶液を用いた小学生へのフィールド研究を行いました。その時のむし歯予防効果は明らかでした。
この研究をしている時に、歯のエナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイト配合の歯みがき剤のむし歯予防効果を検証するため、基礎研究をスタートしました。
人の抜去歯を用いてエナメル質部分を軽いむし歯状態(脱灰)にし、「何も処理しないもの」「人工唾液に漬けたもの」「ハイドロキシアパタイト配合の歯みがき剤を作用させた上で人工唾液につけたもの」「健康的なエナメル質」と4つを経過観察しました。そうするとハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤を使用することにより、唾液の作用と相まって脱灰された表層が修復されていることが確認されました。
その後基礎研究を実証するため、小学生へのフィールド研究を実施します。岐阜県の小学校4年生児童を対象に、ハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤と、他の成分は同じですがハイドロキシアパタイト無配合の歯みがき剤を使うグループとに分け、お昼に1回学校で使用してもら、新しいむし歯発生状態について卒業までの3年間コホート調査しました。
その結果、研究開始時に生えていた健全歯の比較では男子には両グループとも差が見られませんでしたが、女子は1年後から統計的に有意の差がみられハイロドキシアパタイト配合歯みがき剤のむし歯抑制の有効性が確認されました。また新しく生えた歯では男女ともハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤の有効性が確認されました。
これらの結果から、1993年ハイドロキシアパタイトは薬効性のあるむし歯予防成分として厚生労働省より認められました。